それでもわたしは、ニューヨーク・フィルの北朝鮮公演を支持する

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photo source/NY Times


日本でもこのニュースは伝えられ、

きっと物議を醸し出しているはずで、多くの方がご存じだと思うが、

創立1842年、世界でも著名なニューヨーク・フィルハーモニックが、

280人の団員を連れて、アメリカとは国交のない北朝鮮入りし、

2月26日午後、東平壌大劇場で公演された。



アメリカではPBSが26日に放映した。



保守派の新聞などからは、「信じられない」「いかがなものか」的に批判されているこのコンサート、実現にこぎつけられた蔭には、個人のパトロンの尽力があった。


しかも、そのパトロンは、アメリカ人でも北朝鮮に造詣の深い韓国人でもなく、

ベニスに暮らすイタリア貴族のチェスキーナ伯爵夫人だったことは特筆に価すると思う。


そして! 思わず鳥肌が立ってしまったのは、

そのチェスキーナ伯爵夫人はなんと、

旧姓永江洋子とおっしゃる日本人女性だったことだ。


ウォールストリート・ジャーナルによると、伯爵夫人は、世界の著名なクラシックの音楽家たちの間では有名なパトロンで、イスラエルフィルのプレジデントであるズービン・メータ(現ニューヨーク・フィルのプレジデント、ザーリン・メータとは兄弟)を友人に持ち、ニューヨーク・フィルの他にも、キロフ・オーケストラをサポートしており、ベニス、ニューヨーク、テルアビブ、セントペテルスブルグ、東京を行ったり来たりする音楽三昧の生活をおくってらっしゃるとか。



このチェスキーナ夫人の人生は、まさにシンデレラ物語そのもの。



その詳細はこちらに譲るとして、

ここでは、

世間の批判覚悟でこのコンサートを実現させることにしたニューヨークフィルの勇断を讃え、また、静かにニューヨークフィルをサポートすると決めたチェスキーナ洋子さんに、ブラボ!!!  といいたい。



まさに人種のるつぼ、ニューヨークが誇るフィルハーモニックにふさわしい、

人種、政治的信条を超え、音楽による外交を信じるポジティブな考え方、


「政治的なしがらみやイメージがつきまとい、このようなサポートはしたくてもできない企業になりかわり、わたしなら、政治からも一切無縁、批判も受け止める覚悟で引き受けた」とおっしゃる洋子さんの胆力はすばらしいと思う。


オバマは「話し合いは、友好国とだけするのではなく、敵国ともしていきたい」という。

しかし、このコメントは、今日も保守派の新聞 New York Sunで、

dangerously naive(危険なほど世間知らず)と批判されていた。


ウォールストリート・ジャーナルによると、

ニューヨーク・フィルハーモニックのディレクター、ローリン・マイゼルは、

ソビエト時代のロシアで公演をしたとき、会場で多くのロシア人たちに、小声で

「わざわざわたしたちの国に、演奏をしに来てくれてありがとう」と感謝されたことが忘れられないという。



ニューヨークフィルハーモニックは、1959年、当時まだ、鉄のカーテンががっちりと下りていた時、ソビエトで公演している。

20世紀に共産主義という怪物思想をサポートした革命家レーニンの「弁慶の泣き所」は、ベートーベンの情熱のソナタだった。

「このソナタをずっと聞いていると革命を遂行することが難しく感じる」といったらしい。

そんな一筋の希望をつなげて、

もし、わたしがアーチストだったら

北朝鮮に演奏に行くだろう。


もし躊躇する自分がいれば、行くべきだとせき立てることだろう。



それは何も、美しい音楽は、日本人を拉致し、今だに安否さえ分からない状態に棚上げにしているにっくき相手にも平等に聞かせるべきだというきれいごとをやみくもに信じているからではない。



ニューヨーク・フィルのディレクターがウォールストリート・ジャーナルに書いたように、


最終的には、現在の独裁制の下に存在する北朝鮮に、内部から革命をおこさせるために、このミッションを利用できるのではないかと、わらをもすがる気持ちで思うからだ。

長い目でみればその勝算は十分にあると思うからだ。



つまり、今なら、このコンサートをきっかけに、北朝鮮内部にすでに出来つつあるひずみを、内部からこじあけて崩壊させるきっかけになるのではないかと過去の経験から考え、行くと決めたニューヨーク・フィルの幹部たちの気持ちが理解できるからだ。


忘れてはならないのは、たとえば日本人を数人拉致していることを知る国民は北朝鮮に一体何人いるかということだ。

多分リーダーと一部の側近だけが知っている極秘裡に行われたことのはずだ。

つまりいうなれば多くの国民には罪はなく、飢饉に見舞われ、普段は電気もままならない生活を強いられている彼らもまた被害者なのではないか。


1959年、レナード・バーンスタイン率いるニューヨーク・フィルはソビエトに公演に行った。

当時、ソビエトに拉致されていたのは、数人というレベルではなかった。

東ヨーロッパ諸国は国ごとソビエトに抑圧され、拉致されていたとは言えまいか。


また当時のアメリカとソビエトは、タッチの差で、お互いに核兵器のボタンを押す一歩手前までいったこともあるほど切羽詰った疑心暗鬼の「冷たい戦争中」だった。


その緊迫した状況下で、それでも、ニューヨーク・フィルは公演に行った。

団員の中には東ヨーロッパ出身の方もいたかもしれない。

そして・・・・・

それからソビエト内で、アーチストを中心に何かが変わったとはいえないだろうか。


ミハエル・バリシニコフのように西側に亡命するアーチストや何人かのスポーツ選手が出てきた。


そして、


最終的に、内部から民主化のひずみが進み、クレムリンは崩壊した。




映画、「善き人のためのソナタ スタンダード・エディションは、国民全員が政府の厳しい管理課に置かれ、盗聴されていることを知りつつ、命がけで西側に情報をリークさせた東ドイツのライターたちの話。


このような内部からの胆力ある努力がチリも積もり、山となり、ベルリンの壁は崩壊したのではないか。


ニューヨーク・フィルのディレクター、マーゼルはまさに、本来リベラルで自由な表現を求めるアーチストたちの内部から覆す力に賭けているのだ。


武器の代わりに、ペンや、楽器や、筆を使って、


打ち負かすのではなく、無血で、静かに感動を与えるという手段を通じて。

あの北風と太陽の童話のごとく、

どんなに強い風を送っても旅人のコートは脱がせられなかったけれど、

太陽が暖かく照らすことで旅人は喜んでコートを脱いだように・・・・


正式な政府間での外交が役に立たないなら、

政府中枢部にいる側近でさえ亡命をするほど、腐敗し、疾病し、力を失くしつつある北朝鮮を、内部から覆す時期が塾している今、音楽のマジカルなパワーでダメ押ししてみよう、ということなのだ。


そうドミノ倒しの最初のひと押しをねらって。

アメリカのメディアが伝えるところによると、厳しい統制下にあっても、北朝鮮との国境を越えて、中国や韓国からこっそり西側のDVDやビデオを北朝鮮に持ち込む人間が後を絶たないそうだ。



つまり政府から洗脳されて信じていたプロパガンダとははるかに違う西側諸国の「甘い誘惑」を、国民が知る機会が増えているのだ。


見えない敵を憎むことはなんと簡単な、けれど虚しい、エネルギーのムダ遣いなのだろう。


ユダヤ系アメリカ人の男性で、叔母さんがかつてナチの強制収容所で亡くなったことを理由に、ドイツと名のつくもののすべてを憎み、ドイツ車に乗ることも否定している人を知っている。


今では親しい韓国人の知人は、韓国にいたころ、「日本がわれわれにした仕打ちを絶対忘れてはならない」と家でも学校でも言われ続けて育ったと話してくれた。




けれど、敵がこれまで考えていたのとは大幅に違うことを知ってしまうと、憎しみのパワーも弱るものなのではないだろうか。



わたしの尊敬する音楽家、ダニエル・バレンボーム(Daniel Barenboim)は、


ブエノス・アイレス出身のロシア系ユダヤ人だ。



彼は、今も自爆テロが絶えず、イスラエル人とパレスティナ人の間で殺戮が繰り返されているまさにど真ん中にあるパレスティナ領のイスラエル、ウエストバンクで公演をした。



もちろんそのコンサートは大成功で多くの敵たちの温かい拍手に包まれた。


彼は音楽、芸術を通じて世界平和を願い、もっとも積極的な活動をしている音楽家の一人だ。



拉致被害者のご家族としては、北朝鮮のリーダーは、極刑をもってしてもまだ足りない気分だろう。

それが人間というものだと痛ましい気持ちをもって思う。


けれど、憎い敵だから、と戦い以外の接触を避けていたら、何も解決にならないばかりか、核を所有する北朝鮮、最期のあがきで何を仕出かすかわかったものではない。


イラク戦争を例に挙げるまでなく、戦争という形の圧力のかけ方では解決できないのなら、別の形に賭けてみよう。


ムチがだめならアメ。


戦争がだめなら、音楽で。



外交とはそういうものではないだろうか。



ニューヨーク・フィルが北朝鮮公演のオーファーを受けた背景には、このような熟考のもと、アーチストたちのパワーに賭けてみようといういちかバチかの思いがあったとわたしは考える。


それをチェスキーナ洋子さんもよくご理解なさって、協力することになさったと、わたしはウォールストリート・ジャーナルの記事からそう行間を読み、信じている。
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by rumicommon | 2008-02-27 01:21 | NY1%未満の時事


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