永井荷風の暮らした100年前のマンハッタン

時々、百年前のマンハッタンは一体どんな感じだったのだろうと空想のタイムマシーンに乗ってみることがある。

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1887年に建てられた直後のダコタハウス。セントラルパーク内スケートリンクごしに臨む。

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1800年代半ばに規格整理されたマンハッタン。


そんな時私は、永井荷風の「あめりか物語」をひも解く。

あめりか物語 (岩波文庫)
永井 荷風 / / 岩波書店
ISBN : 4003104269
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荷風が5年間にわたるアメリカ・フランス滞在を終えて帰国した1908年に出版した、米国滞在を記した宝石のように美しい散文集だ。

マンハッタンには実は、世界恐慌前(日本の大正時代)に建てられたビルが予想外に多い。
けれど百年前となると、さすがに生活の場は23丁目より南が中心で、アップタウンでは、1907年に建てられたプラザ・ホテルなど、現在もその形をとどめているビルは数えるほどだ。

当時マンハッタンに滞在していた邦人も一握りで、荷風がその一人について書いた「長髪」はとりわけ秀逸だと思う。

荷風が、第五大通り(五番街)から中央公園(セントラルパーク)の並木道を歩むと、四つの車輪と駆者の衣服から帽子までを濃い藍色にした一輪の車が青々とした木陰を縫って進んで来る。

その華美な藍色が、晴れた春の青空と、明るい新緑の色に調和して、まことによく人の目を惹くので、近づくのを待ち、この主こそはいかなる人かと眺めると、帽子を飾る駝鳥の毛をば同じ藍色に染め、それに釣り合う華美な衣装―しかし年はさほどに若からぬ一婦人で、その傍らに相乗りしたのは、いずこの国民とも知れず、真っ黒な頭髪を、さながら十八世紀の人の如く肩まで垂らし、短い赤い口髭にリボン付きの鼻眼鏡をかけた若紳士。

それが、資産ある伯爵家の長子、藤ヶ埼国雄だった。
コロンビア大学に入学したものの、教場に出るのはほんの義理一遍、春はピクニックや乗馬、冬は舞踏や氷滑り、(中略)もしくは木陰の青芝の上に身を安楽に横たえ、葉巻の煙をゆったりと燻らしながら、何をなすともなく悠然と空行く雲を眺めているという。

そして荷風は、そんな国雄を、世の中にはこんな怠惰な人間があろうかと思う。
やがて、国雄は学校には来なくなってしまい、荷風は散歩がてら彼が住む家を訪問する。

ここからが1905年ごろの高級アパートメントの描写に続き大変に興味深い。

次回は国雄の住むそのビルはどこだったのかを、突き止めてみたい。 


                   ー続くー


072.gifこの記事は、昨年週刊NY生活の連載「NYビルディング万華鏡」に連載されたものに一部手を加えたものです。
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by rumicommon | 2008-09-08 23:53 |  ー100年前のマンハッタン


ニューヨークから見える日本人や日本のすばらしさ、時に不思議に感じることなど


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